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スウェーデンにおける老人ケア

目次
はじめに
1.老人ケアの制度

2.コミューンにおける在宅サービス

3.自宅以外での在宅サービス
4.ケアのための住居
5.ケアに対する考え方
おわりに

 はじめに

 わが国は,21世紀に有史以来の長寿社会を迎える。長寿社会は,戦後の経済成長による国民生活の充実,社会保障制度の拡充.医療水準の向上などの恩恵によるもこである。しかし人口の高齢化は、要介護老人(寝たきり,痴呆,一部の虚弱老人)数の増大が見込まれるなか,すでに多くの問題を提示している。
@介護期間の長期化
A介護者の高齢化
B家族の介護負担の増大など
 高齢者介護は国民にとって,深刻な事態を呈している。今後の長寿化が,将来の高齢者介護に,大きな不安を与えていることも事実である。私たちは,将来の高齢社会に向けた,新たな介護システムを構築する必要性にせまられている。北欧諸国は,介護の社会化を長い年月をかけて構築してきた経過がある。日本と北欧では,文化・歴史など違いは大きいが,同じ高齢社会を進む先進諸国として,北欧のシステムから学ぶことも多い。老人ケアの在り方,サービスの内容など示唆に富むものである。

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1.老人ケアの制度

1)概要
1993年12月の時点でのスウェーデンの総人口は870万人,65歳以上の人口比は,17.6%である。平均寿命は,女子が80.8歳,男子が75.5歳である。2000年までは高齢化比率はさほど変化しないが,2000年から2020年にかけて上昇するものと予想される。また後期高齢者の比率も増加する(表1)。
 スウェーデンにおける老人ケアは,国と県コミューンと地方自治体のコミューンが,


それぞれの分担を決め,責任を持っている。社会サービスを提供し,その責任を持つのが地方自治体コミューンであり,ヘルスケアを受け持つのが県コミューン(ランドステインゲット)である。国は調査・研究を通じて,助言や評価を与えるものである。その役割は表2に示すとおりである。

2)コミューンの役割
 スウェーデンの老人ケアは,1982年の社会サービス法の制度化と,1983年の保健・医療改正,1992年のエーデル改革により、現在のかたちに変化してきた。1982年の制度化で,高齢者の在宅ケアの推進と,1983年の改正で,地域医療の発展をし,すべての国民の健康とケアが,地域であろうと施設であろうと、平等かつ質の高いものとなることを目指したのである。
 1992年の改革では,老人と障害者の社会サービスとヘルスケアに関してのすべての責任を,地方自治体コミューンに移譲した。この改革によって,それまで県コミューンの管轄であった長期療養病院(500カ所・31,000床)は,地方自治体コミューンに移された。しかし,短期療養と治療の必要な老人患者の老年科およびその病棟は,現在でも県コミューンに委ねられている。その結果,地方自治体コミューンは,地域に住む老人のケアと,デイセンターを訪れる地域住民のヘルスケアに関する全責任を負うことになり,地方自治体コミューンの社会福祉部門に,ヘルスケアが組み込まれた。

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2.コミューンにおける在宅サービス

 スウェーデンにおける,かつてのケアやサービスを行う場所は,病院,老人ホーム,その他収容施設といわれる施設などであったが,近年では在宅ケアが主流となっている。スウェーデンに在宅ケアが定着しだしたのは1970年代のことで,それもケアとサービスが提供しやすい場所や空間を,高齢者や障害者に提供したのであった。現在みられるように,自宅で介護を受けられるようになったのは,1982年の社会サービス法の制定以後といえる。この法定により,本人の意志に反して,住み慣れた場所から離すことが禁止になり,自宅における介護サービス提供のきっかけとなったのである。
 社会サービス法が,示した方向は二つある。一つはコミュニティの中で,長年住んできた住居に住み続けながら,必要に応じて訪問ケアサービスを受け,自立生活を維持し,デイセンターに通うなど社会との繋がりを持ち,社会参加を促していくことである。もう一つは,高齢で心身機能低下の著しい老人に,サービスハウスなどにおいて,ケアサービスを受け,理学療法や作業療法を行いながら,基本的な生活自立を保つことである。この法案で,高齢者の自宅在留期間の延長をはかり,施設収容型ケアから在宅ケアへと,飛躍的に移行してきたのである。
 今日においては,スウェーデンの高齢者のほとんどは,自宅で暮らしている。高齢者の5%のみが施設で暮らしている。この在宅ケアを支える仕組みを図1,2に示す。


 1)ホームヘルプサービス(資料1)
 ここに,挙げたコミューンの在宅ケアサービスの根幹をなすものは,何といってもホームヘルプサービスである。ホームヘルプサービスの伝続は,50年以上前から,スウェーデンの福祉システムの中に組み込まれていたが,当初は,年金生活者の家事の手伝いといった状況であった。しかし,すべてのコミューンが年金者と障害者に目を向け,10年以上にわたり,種々のサービスを提供し,経済的にも援助してきたことで,現在のようなホームヘルプサービスシステムが,でき上がってきたのである。
 ケアサービスの内容としては,家事援助サービス(掃除,洗濯買物,食事作り,給食サービス,雪かきなど),身体介護サービス(起床・就寝介助,移行介助,入浴介助,排泄介助,足治療,洗髪・整容,外出介助,話し相手)である。そのほかにも在宅医療の一部である看護処置(与薬・注射,塗薬,包帯交換,傷の手当てなど)がある。
 スウェーデンの65歳以上の老齢人口の14%,80歳以上の34%が,何らかのホームヘルプサービスを受けている。1991年のホームヘルプ提供時間は1億300万時間で,1人当たり年360時間であり,週に約7時間となる。より重度の介護が必要な場合は,1週間で50時間以上になる。1989年では85,000人のコミューンのホームヘルパー(パートタイム含む)がおり,3,000カ所のホームヘルプセンターがある。

 2)夜間休日パトロール
 スウェーデンでは先に述べたように,コミューンの在宅ケアサービスは,拡大の一途をたどっているが,サービス内容も多様になっている。電話によるホットラインサービス,緊急呼び出しシステム,夜間休日パトロールがそれである。
 コミューンのサービスの一つとして,電話によるネットワークを組織して,高齢者や障害者に定期的に連絡をするというのがある。1990年では,6,000人以上がこのサービスを利用している。
 緊急呼び出しシステムは,各コミューンで設置され,1991年には52,500件にのぼっている。
 夜間休日パトロールのサービスを提供しているコミューンは,1990年度で261カ所であった。平日の夜9時から翌朝7時とウイークエンドの設定された時間に,ヘルパーと准看護婦(コミューンによってスタッフの構成が異なる)が、スケジュールにそって巡回している。また,午後5時から9,10時頃までをイブニングパトロールと呼び,体位変換,排泄介助,緩和ケア,重症患者のケアと死にゆく患者をみとる家族ケアのために自宅を訪問する。平均一晩12人の患者を受け持ち,1人の患者につき,その状態に応じて1〜4回の訪問を行うのである。このサービスを受けている人の60%は独居老人である。そのうち毎晩利用しているのは17%で,休日を利用する人は27%にも達する。

3)訪問看護(PAH)
訪問看護も在宅ケアに欠かせないサービスであるが,1992年の1月1日にこの訪問者護は,ランスチインゲット(県コミューン)からコミューン(地方自治体コミューン)に移されてスムーズに動きだした。もちろんそれまでも,地区の保健医療センターから派遣されていたが,地方自治体に移管されることで,よりホームヘルプとの連携がとれるようになった。通常の訪問チームは,地域看護婦(保健婦)・准看護婦などと,保健医療センターに組織されている地区医・地域看護婦・P.T.・O.T.などからなる中央グループといっしょに働いている。
 1991年の調査では,約3万人がホームヘルプと訪問看護の両方を受けており、地域看護婦(保健婦)の仕事の約40%が,訪問看護に費やされている。1989年の政府報告では600人の看護婦,300人の看護補助者,そのほか600人が訪問看護に携わっていたと報告されている。

4)在宅医療(SAH)
 この在宅医療は,通常の地区医療センターからの地域看護婦や地区医師が,24時間見守っている前述した訪問看護とは違い,病院(県コミューン管轄)の老年科から派遣され,医師と病棟職員が24時間訪問するシステムである。対象患者も前述した訪問看護の対象とは異なり,ターミナルケアやいつも治療を必要とする患者である。そこには,必要であるならば,病棟のベッドはいつも確保されている。この看護体制は「患者の家に病院のベッドを」とでもいえよう。
 すべての家庭における看護ケアは,患者本人とその家族の決定に従い,できるかぎり個人意志を尊重し,患者の退院前から準備がはじめられ,患者に必要な機械器具・薬品などを用意する。このシステムの利用には費用は一切かからないが,老年科の病棟に滞在する際は,1日につき85クローナ(1クローナ約16円)負担しなければならない。介護用品,特に疾病によっては用いなければならないオムツ,シーツ,人工肛門の用具,尿器などは無料である。薬品については,年間1,600クローナまでは支払うが,それ以上は無料である。

5)住宅改造資金手当
 自宅に長く住み続けるためには,住居が大切になる。身体機能の衰えに即して,自立生活が可能になるような住宅の改造が必要となってくる。この際の住宅改善の費用を国庫が負担する制度が,住宅改造資金手当である。これが受けられるのは,身体・精神障害を有する住宅所有者・賃貸居住者で,その障害が長期的な場合である。この資格申請の認定に当たっては,医師・保健婦・O.T.などの証明書が必要である。住宅改造は多種多様であり,日常生活動作(移動・排泄・入浴・食事・家事など)を容易にする工事が,住居内外で行われる。1991年では,改造費用は3万クローナまでは国庫が負担し,本人の収入には無関係である。
また,老人の年金収入によっては住宅手当がでる。老齢年金受給者の29.6%がこの住宅補助を受けており,金額はその収入によって,一部補助から家賃全額まであり,サービスハウスに住んでいる老人にも適用される。

6)家庭介護手当
 1991年に改正された「家庭介護手当」が制定された。かつては,親族で週20時間以上であれば,親族介護者として地方自治体に雇用されると,制定後は,介護時間数が週17時間であれば,親族だけでなく身近な人も,介護者としてコミューンに雇用される。また介護時間数が週5時間以上で,近親者から介護されている場合も,コミューンより介護手当が支給される。1990年には,7,000人が身近な介護者として,コミューンに雇用されたという報告がある。

7)介護休暇手当
 そのはかにも,1989年には「近しい者の介護のための保障と休暇に関する法」が制定され制度化された。これは,重病で最後を自宅で過ごしたいと望む時,親戚・友人・知人がその患者のために,自分の仕事を休むことができるという制度である。仕事を休んだ期間は,1人につき年間30日まで,社会保険から疾病手当の80%に相当する金額を保障される。
 1989年には,560万クローナの介護休暇手当が支給され,合計日数は13,770日であった。1992年にはこの制度は改正され,介護休暇期間は60日となり,年間の介護手当は800万クローナとなっている。この制度はまだ新しく細かな実態はつかめていないが,家族以外の近しい者としたことにこの法の特徴がある。
 スウェーデンにおいては,高齢者はさまざまな在宅介護を受けているが,それでもまだ4%の高齢者が「彼らに必要なサービスを受けていない」との報告があり,さらに75歳以上の老人は,「ほとんどサービスを受けていないか,まったく受けていない」と感じており,はかの年代と比較すると,この数は2倍以上に及ぶ。後期高齢者が増え続けるこの現状では,もっときめ細かな介護が必要となる。公的な支援だけでは,目の届かないこともある。それを補うものとして,家族・親戚・友人・知人・ボランティアの活動を見直していく必要があるとして,家庭介護手当と介護休暇手当に関する二つの法制が示された。今後もこの取り組みは拡大する傾向にある。

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3.自宅以外での在宅サービス

1)デイセンター
 前述した自宅における在宅サービス以外に,老人が自宅に長く住み続けるようにするには,そのほかの支援も必要となる。すべてのコミューンは,各地域ごとにデイセンターを持つ。地域の在宅老人に対するケアサービス・訓練の提供の場,さまざまな活動を通じての老人同士の交流の場であり,またホームヘルパー活動の拠点でもある。このようなデイセンターは,1990年には1,600カ所あり,現在でも増加している。はとんどのデイセンターは.サービスハウスや老人ホームに付設されている所が多いが,近年では,独立して住宅地の中に建てられ,食堂(カフェテリア形式のもの)・理学(運動)療法室・介助浴室・作業療法室(ホビー室)・足治療室・理容室・集会室・キオスクなどがある。給食サービスも行われ,約1万人が利用している。

2)デイケアセンター
 在宅の痴呆老人を対象にしたデイケアセンター(通所施設)があり,家族介護の軽減と痴呆性老人自身の活性化を促し,少しでも長く,自宅で暮らし続けられるようにと設置されている。このデイケアセンターは,週5日開かれており,夜間と週末には家において,ホームヘルパーや訪問看護を受け,それぞれの地域で生活している。利用度は,個々の老人の症状により異なり,週1回から毎日という老人までさまざまである。通所機関も1日から7週間と幅がある。

3)交通サービス
 デイセンターやデイケアセンター.病院などに行く場合に,公共交通機関が使えない高齢者や障害者を対象に,すべての自治体で行われている移動サービスである。このシステムを利用するには,コミューンからの資格認定が必要であり,この判断を下すのは医師あるいは地域看護婦(保健婦)である。このサービスには,地方自治体と国レベルの移動サービスがある。
(1)地方自治体コミューンのレベル
 通常のタクシーを利用する方法は,年間72枚の無料切符が支給される。もし,それ以上に通院や通所にかかる場合は,申請することができる。そのほか仕事場や学校の往復は,各々申請をして,その費用は地方自治体が負担する。これら以外にも車椅子ごと乗り込めるマイクロバスに複数の介助者が付き,移動サービスを行う方法もあり,国鉄や地方自治体が車とスタッフを提供している。この方法を利用すると,1回の外出(3マイル)に38クローナを支払うが,毎月の上限がSLカード(1カ月定期料金)以上払うことはない。1990年には,全人口の441,000人がこの地方自治体の交通サービスを利用しており,そのうちの84%は65歳以上である。1年間に平均38回利用していることになる。経費の35%は,国庫から補助されている。
(2)国レベル
 レクリエーション,旅行,休暇,親戚・友人訪問のために移動サービスが必要になる。国内を地方自治体コミューンや県コミューンをまたいで,大きく移動する時に利用される。利用する3週間前までに,国の交通委員会に申請をする。飛行機・鉄道・バス・船舶の利用にも適応される。この利用が困難な時は,タクシーか介助者付きのマイクロバスを利用するが,料金は同距離を鉄道で移動する時の2等料金を支払う。随行者がいる場合でも,随行者の運賃は支給される。
これまで述べてきたように,自宅外での社会におけるサービスが存在して,はじめて老人の社会生活は営まれるといえる。

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4.ケアのための住居

 スウェーデンの92%の老人は,一般住宅に暮らしているし,彼らの半数余りが持ち家である。一般住宅の住宅水準は高く,ほとんどの高齢者は,集中暖房の家に住み,蛇口をひねると水やお湯がでる。台所・洗面所なども完備している。しかも高齢者施策の一般方針が,高齢であったり,障害を持っていたりしても,それを補い,支援して,できるかぎり自宅で暮らしていくことであるから,地方自治体コミューンは,住宅施策に力を注いでいる。
 しかし,それでもなお一般的な住宅では,無理だという場合がある。地方自治体コミューンでは,1992年から,すべての住宅に関して責任を持つことになり,ケアのための住宅も,その責任範囲とすることとなった。これらの住宅は,サービスハウス(servishus),老人ホーム(alderdomshem),ナーシングホーム(sjukhem)であり,1980年代のはじめから建てられてきた,痴呆老人のためのグループホーム(gruppboende)もそこに含まれる。
 1992年のエーデル改革から,行政の責任範囲や高齢者ケアの責任範囲が変化し,高齢者のケアがより複雑,かつ手間のかかるものとなっているにもかかわらず,統計上では1991年と比較すると,これまでの老人の医療ケアの施設に入院していた数より,合計では少なくなっている。このことから,ケアのための住居が,それなりの成果を上げているといえよう。

1)サービスハウス(ケア付き住宅)(資料2)
 サービスハウスは,通常建物に20〜100戸建てられ,1970〜1980年代を通じて建設された。1〜3部屋とキッチンと浴室からなり,一番多いのが2LKで,全体の約半分を占める。各部屋には緊急コールがついている。
1990年には,施設数871,入居者数約42,000人である。この住居に入居するには,地方自治体コミューンが,その入居者の年齢や身体の状態などから判断して,入居者自身が賃貸契約をすることになっている。1980年代のサービスハウスは,ナーシングホームや老人ホームに併設されるものや,他世代住居との統合も行われ,一般住宅と同じように,必要に応じてホームヘルプサービスを受けることができる。サービスハウス内には,ホビールーム
(木工・織物など),食堂洗濯室,特別浴室,足治療室,売店などが揃っている。

2)老人ホーム(資料3)
 この老人ホームは,1918年の救貧法において設置が義務づけられ,1920〜1930年代と1950〜1960年代に多く,1974年にそのピークを迎え,入居者数が58,000人であった。しかし,雑居部屋が多かったり,共同トイレであったりと質の面で問題があったので,1960年代には個室の増加,部屋面積の拡大,トイレ・シャワー室の拡大をはかり,1988年からは,この老人ホームをサービスハウス化する方針がとられ,現在でもこのタイプの老人ホームは改築されている。1991年には全国の老人ホーム数は850程度あり,部屋数は34,500である。
運営主体は主に地方自治体であり,入居者はそれぞれ,個室を持ち,トイレ,一部シャワー,キチネット付きである。部屋面積は概して狭く(10〜15m2),この部屋に家具などの私物を持ち込んでいる。食事は決められた時間に,はかの入居者と共に取る。現在は小単位化が進められており,すべての入居者が一緒に食べることはない。この老人ホームの料金は,所得額に応じて決定され,収入が基礎年金だけであれば,1人で1,208クローナ,2人で2,258クローナである。それ以上の収入のある人は,手元に収入の30%が残るように計算される。

3)ナーシングホーム
 1992年のエーデル改革により,長期療養病院の約31,000床のベッドが,県コミューンから,地方自治体コミューンに移行した。1992年から,痴呆患者や重介護者,ターミナルケアを必要とする患者が増加している。この傾向は,ナーシングホームの本来あるべき形であり,より看護を必要とする患者に,看護ケアが集中しはじめたことを示している。また,エーデル改革により一般の病院から「ベッドブロッカー」といわれる患者が,病院看護ケアからナーシングホームに移ったことを示すものである。1990年のベッド数は46,000床である。
 エーデル改革前後は,病院という雰囲気で,看護単位も非常に大きく,最低でも28床あり,多いところでは60床もあった。現在では8〜18床と小さな看護単位となり,より家庭的になるように努めている。個室の増加,居住空間の改善,病室の住居化などがなされ,一部のナーシングホームでは,ホスピスケア,短期リハビリ,痴呆ケアがなされている。また一部の地方自治体コミューンでは,まったくナーシングホームを持たず,そのかわりに,一般住居で,介護者や看護婦に24時間世話をしてもらっている例もある。

4)グループホーム(資料4)
 1980年代からは,脱施設化をはかるためと,在宅小集団でのケアサービスが,とりわけ痴呆老人に適することを立証したことが,グループホームの設立を促した。原型となったのは,精神薄弱者用グループ住宅で,15年以上の積み重ねがある。精神障害を持つ子どもたちが親元から独立し,施設廃止などでコミューンが借り上げた大型住宅に5〜6人が住み,24時間通勤職員が常駐する体制である。なるべく普通の家族・兄弟姉妹同居に似た雰囲気で生活をし,地域に溶け込むことを目指して作られた。この小規模住宅が,痴呆老人に生活の場を提供した。それまでは,精神病院や老人病院に入院していた者がほとんどであったが,精神病院の縮小や廃止に伴い,居住への切り替えとケアサービスの充実をはかった結果が,このグループホームであった。
 いまだ,これがグループホームだという基準はできていないが,小規模で6〜8人の痴呆老人を24時間介護する施設であれば,一般

住宅の一角がグループホームになったり,ナーシングホームやサービスハウスの一角に作ったりする場合もある。もちろん独立した一軒家のグループホームもある。それぞれの入居者が自分の部屋を持ち,食事やアクティビティの共有の居間があり,各部屋にトイレや洗面所のついているものから,共有のものまでさまざまである。今までに本当に痴呆老人に適した介護型住居がなかったので,すべての地方自治体コミューンは,このグループホームの普及拡大を目指している。1993年には,このような住居に7,000人が生活し,介護を受けている。
 1992年から1996年にかけての5年間に,約400ヶ所のグループホーム建設に20億クローネの補助金をだし,3,000人の入居者を予定している。しかしまだまだ不足しているといわれ,今後も普及拡大の方針は続けられる。痴呆症にかかる老人は,スウェーデンでは高齢者の4.2%,約6万人ともいわれ,この住居形態によるケアサービスが,ますます必要となってくるであろう。

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5.ケアに対する考え方

1)ケアの前提条件
 目標は,すべての国民が,できる限り病気にならないように予防し,健康の維持ができるようにすることである。また,すべての国民が同じケアを受ける権利を有するものである。そのためケアの領域に関しては,みんなが利用しやすく,近づきやすいものであることが重要である。医師・地域看護婦・看護婦・介護士・0.T.・P.T.などにコンタクトが取りやすく,なおかつ,一部の人にだけ経費がかかるというものであってはならない。ケアは,子どもから老人,裕福な人も貧しい人も,スウェーデン人であろうと移民であろうと,ケアの質に差異があってはならない。ケアはもちろん,障害者にとっても利用しやすく近づきやすいことは当然である。
 患者はいつも中心にいる。これは1992年以前に比較すると,その権利はケアをする側の人たちに広く行き渡っており,世界においても高い評価を得ている。患者は,議会においても,この保健医療に関しては影響力を持っている。それというのも保健医療庁には,国民から選ばれた政治家が,この行政官庁に在籍しており,住民の意見が保健医療庁の施策決定に影響を与えるからである。

2)患者の権利
 すべての人の生活にとり,保健医療は大変重要なものである。そのため,どの患者であろうと保健医療部門には影響力を持っているべきである。患者は,自分の望みがかなえられる必要がある。そのため私たち(国民)には,権利を保障する法律がある。もし自分が望まないケアであるなら,自らが決定する権利がある。もし患者が自分で決定をしたなら,医師はそれを尊重し,治療に対しても「いいえ」という権利を有している。特に,精神科領域,感染病領域においても,法的に「いいえ」という権利は保障されている。
 患者はいつも患者自身の望みを,はっきりと介護者に提案することができる。患者自身と患者の家族・親戚・友人の意見や方針や経験は,尊重されなくてはならない。介護者は,治療の名目において,患者の医療的な知識や経験を無視して治療看護を行ってはならない。介護者は,治療や看護に対して,治療看護上必要かつ有効である場合以外は,治療上のことは秘密にしてはならない。また,患者に対して,必要だと思われる治療以外の治療をする権利は有していない。
 治療看護は,できるかぎり患者と共に計画が立てられ,いつも患者は自分の病態や治療の情報を得ることができる。医師・看護婦・P.T.・0.T.などのスタッフが行う治療や検査や看護に関して,納得のいく説明を受けることができる。またその説明は,患者自身が理解できるものではならず,もし理解できなけば,理解することが可能になるように人を派遣したり,また通訳の派遣を頼む権利がある。
 本人はカルテ(ジャーナル)を読む権利がある。また社会保険庁においても請求すれば,必要な部分あるいは,すべてのカルテは本人に公開される。もっと細かい情報が欲しい場合は診察,疾病,検査,入院などであるが,保健医療庁の情報処理課に連絡をとり,患者本人の照会があれば無料で提供される。

3)守秘義務
 保健医療に働く人々には守秘義務がある。もし,これを守らない場合は法的な裁きを受ける。これは患者の人権を守るものであり,人として大切なことである。しかし,特別な場合(例えば虐待などによる負傷,犯罪にかかわる場合)は,裁判所あるいは,それに替わる管理監督所に知らさなければならない。

4)ケアの質に対する権利
 患者は,知識とよく訓練されたスタッフによってケアされる権利を有する。例えば,時間を決めて治療や検査にきていて,30分以上待たされることがあれば 料金の払い戻し請求ができる権利を有している。しかし,これは救急の場合は適応されない。患者が,どんな形で入院しようと,病院の転化であろうと,ケアの質は守られる必要がある。

5)選択の権利
 患者の住んでいる県コミューンの中であれば,どこの病院を選んでもよいし,また民間の看護を受けてもよい。もし,患者本人にとって,この病院,この医師が必要と思う時は現在の地区医師(家庭医)に相談をすると紹介してくれる。地区医師のシステムの中には,患者自身が地区医師を選択できる。この地区医師は,最初から最後まで患者の医療上の責任をとる。もし,この地区医師とうまくいかないようであれば,医師を替える権利を患者は有している。
 スウェーデンで受けることができない医療やケアについては,フッデンゲ病院に連絡をとり,相談することができる。もし,スウェーデン以外の国で,リハビリを受ける場合は,スウードラ病院に連絡をすればよい。

6)抗議する権利
 治療や看護や介護に関して,患者自身が不平,不満がある場合は,まず第一歩は,すぐ側でケアをしているスタッフに話すことから始める。そして病棟の医長,病院長に話すこともできる。一部には,患者オンブズマンのシステムのある病院があり,ない場合でも病院管理責任者に訴えることができる。
 もし,それでも解決しない時は,保健医療庁から独立した信用委員会(Fortroenden−amnden)があり,患者やその家族の種々の問題解決をはかってくれる。すべての抗議にまつわる基本的な問題解決の場であり,保健医療の分野だけでなく,問題に関連するすべての部所とのコンタクトをとる。この委員会は、政治家と行政官が担当し,彼らには,守秘義務が課せられている。
 もし,医療上の抗議であれば,例えば手術のことや疾病に関することなどで,問題が生じた時は,保健医療責任委員会(Halsooch sjukvardens ansvarsnamd)に,何が失敗なのかを報せなければならない。患者の報告は2年以内にだすことが義務づけられており,報告者は本人または身近な親戚・友人・知人がすることができる。
 患者の安全は守られるべきであり,スウェーデンでは,患者安全保険協会および薬剤安全保険協会があり,医療上における事故,薬剤被害については保障をしている。その事故や被害が解った時点でできるだけ早く報告しなければならない。少なくとも3年以内の報告が期限であるが、状況によっては10年以上でも認められている。

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おわりに

 日本は少子・高齢化が急速に進み、新たなる改革を余儀なくされている。今の現状で突き進めば、いずれ医療費の財政破綻は目に見えているし、年金の破綻もいわれている。しかし、国民生活に密接に関わる福祉医療のことだけに,目先ばかりに終始していても決して住みよい高齢社会にはならないであろう。まだ高齢社会の制度も,社会資本も確立しないうちに,財政状況が厳しいためのだけの社会保障水準切り下げ論まで飛び出している。
 スウェーデンにおいても,1989年に1.6%であった失業率が,1996年には9.8%まで上昇している。不況で子どもの養育補助を,月額750クローナから640クローナ(約2万円)に減額し,年金額の物価スライド抑制などが実施された。また,福祉サービスの一部民間制度が導入された。高福祉国家であるために,財政危機であると諸外国の経済学者から批判されるスウェーデンではあるが,公的な社会資本の整備がなされた上での見直し削減である。日本が高負担低福祉の道を歩むことのないよう願うものである。

 
'97 トータルケアマネジメント Vol.2 No.2 pp90-104より
 
 
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